体の中にある汚れを痰としてを口から吐き出せないと、体内で巡りどこかにひっかかって悪さをする。
異国の医学書にはそう書いてあるらしい。

今年の夏。居候させてもらった友人宅。
その日、一緒に夕飯を済ませたあと早めに自室に引っ込むと、待ってましたといわんばかりに何かが体に入ってくるの感じた。あ、これ、やばいやつだ。素早く着替えてすぐ横になる。たった数分前までは、粽に入れるものは地域性があり北と南では全然違うと数日後に控えた端午節について楽しく話していたのに。あぁ、他人さまのお宅でこんなことになるなんて。とにかく寝なきゃ。友だちが心配して煎じた薬草茶を持ってきてくれるが、ありがとうさえ言えない。数歩先のバスルームまでたどり着くのに、肩で息をするほどになってしまった。すぐ眠りはおりてきたがとても浅くて、体は汗で濡れているが寒いのか暑いのかわからない。南国特有の甘ったるく水分を含んだ重い空気をかき回したくて這いつくばって天井の扇風機をつけに行く。体中が脈打つように痛い。明日は移動日。別の町へ行く日だ。とにかく眠らなきゃ。意識はずっと朦朧として夢と現実の境を行ったり来たりしながら、次の朝を迎え、そしてまた夜を迎えた。

おそらく夜中。自分が出した大声で飛び起きる。そのときいっしょに口から出たのか、目の前に小さい拳くらいの黒い球がふたつ現れ、しばらく浮遊してサボン玉のようにパチンと消えた。
 
バスルームから戻ってごろんと横になり、すぐ眠らないように天井の扇風機を見上げた。何だったんだろう。声を出したのは明らか、でも黒い球はただの残光?
いやいや、深く考えるのは今じゃない。とにかく寝よう。

次に目が覚めたときは、カーテンの外が明るくなっていた。多少の微熱は残るものの、体内に留まっていた何かがすっと去っていった気配がある。体の芯で消えかけていた炎が、弱々しくではあるがまた灯り始めたのだろうか。

(二〇二三年 端午節 台北にて)