えっ。ええっ。
ここを通れないってどういうこと?

時期尚早だなんて誰が想像できただろう。
そんなに広い空港ではないと聞いていたから
無事に乗り換え口を見つけた時点で
中距離飛行での軽い疲労やら
(周りの人たちすごかったね。笑)
すでに出発地で遅延してることやら
どのくらいの時間があれば次の飛行機に乗れるのかわからない不安やらを
もう一気に下ろしてしまったよ。
(でもさ、ここで一泊するいい機会かもよ。)

ここから一仕事しなきゃいけないの?
もうそういう年齢でもないし、おだやかにいきたいのにな。
うーん…あんまり気乗りしないけど
さて、やりますか。
少し声を大きくして携帯電話の電子版航空券を見せながら
別の職員に訊ねて歩く。
一人、二人、三人、
みんな自分の仕事でないので知らないと。
(そりゃそうだよね。)

結局さっきの乗り換え口へ舞い戻るしかない自分が情けない。
相変わらず、一度入国審査を受けて紙の航空券を手に入れろの一点張り。
こちらももう時間がないと食い下がる。
(あれ?でもさ、この町の宿泊先調べてなかった? 笑)
しばしにらみ合いが続くも
(あれれ?お兄さんさっきよりも携帯の航空券画面ちゃんと見てくれてるね。)
この時間さえ無駄にできない自分の負け。悔しいけれど、長蛇の列へ加わらねば。

冷静に。とにかく冷静に。
他の便も到着したようでさっきよりも明らかに人が増えている。泣ける。
自分の前にいるみんなに頭下げて割り込みさせてもらおうか。
や、そんな体力残ってない。やけを起こしてるというよりはもうとにかく疲れていて
頭の中には何も浮かばない。
あとは、天に任せよう。
(どうにかなるよ。大丈夫でしょう。)

自分のあがきもここまでかと思われた時
落ち込みに垂れていた頭をふと上げると
ひと悶着あったさっきのお兄さんが誰かを探している様子。
素早く右手を上げて荷物を肩に担ぎ
彼が手招きしてる優先列の方へ小走りで向かった。

(二〇二三年 春 越南の国際空港にて)