城壁の町・建水で一組の仏人から得たこれから向かう棚田で有名な元陽・新街にある民宿の話は、安宿に少し疲れ始めていた我々にはとても魅力的ではあったけれど、予算には程遠い。とはいえ、中国の南の宿に、防寒設備をとても期待できない。寝しなにきゅっとやるしかない。一度台湾で予約していた宿を見つけられず大変なめにあった経験がある。ここは奮発するべきだろうか。乗り心地のよくない乗り合いバスの中で、花占いのように二つの選択肢の間を行ったり来たりした。

バスが急に止まり全員降ろされた。その様子を見てすぐさま客引きたちが近づきながら声をかけてくる。突然放り出された霧の中で体温を奪われて、判断がうまくできないでいた。どこにいるのかもわからないこんな状態では、どの車に乗ったらいいのかさっぱりわからない。身振り手振りと大きな声が複数迫ってくる。筆談をする気力もなく手詰まりかけていた時、久々に聞く英語に振り返ると、女の子二人組が立っていた。地元香港から出発して三日前に雲南省に入ったという彼女たちは、我々と同じ棚田を目指し、その後北西へ最終的にチベットまで行くという。それはまさに我々が今回断念した行程で、目の前にいる人たちが何日か後には自分が行きたかった場所に立っているんだなあと、流れるように行われていく運転手との交渉を見ながらぼんやり想像した。

(二〇一二年二月 雲南省・南沙にて)