派遣社員を辞めて先行投資という名の借金をして選んだ美容家としての道。動画配信の世界で二十四万人の支持者を集めて、日々日記として書き留めている文章や写真に共感してくれる場所での順位は五位まで上がった。人がなんと言おうと自分を貫いた結果、一年でここまでの地位を手に入れ、更に上を目指しているところ。
だけど、いいことばかりじゃない。定期的に心に拭えないほどの黒雲が立ち込めて、落ち着かせるために心療内科で処方してもらった薬を飲んでいる。幸せを感じる場所がどこだかわからなくなってしまったのだ。
他人からの評価がいいことは、幸福に比例するんじゃなかったの?
医者からは今やってることをやめたら楽になるって言われてるけど冗談じゃない。
あたしがどれだけの時間とお金を使ってここまで来たのか、全然わかってない。
病院変えようかな。
そうそう、
この二・三ヶ月で何度も郵便受けに入ってた広告。送り主はわかってる。気持ち悪いからすぐひねって捨ててたんだけど、昨日の夜は他の郵便に混ざって部屋まで持ち帰っちゃったのか、たくさんの袋や食べ残しで足の踏み場もない床にいつの間にか落ちてた。
ほろ酔いの勢いで拾い上げてみる。ちょっと前に山登りなんて日焼けの可能性大なのにそれを承知で誘うなんて無神経もいいところって言いたいところを柔らかい表現に変えて投稿した(そうしないと支持者が減っちゃう)のを見たのか「昼間のうちにバスで上がって、夕方から下りれるところもあるよ」と付箋が貼ってあった。途中で雨が降ってきたらどうするの。山道を間違えたら。足が痛くなって歩けなくなるかも︙。
またあの黒雲が心に満ちそうになって読んでた広告を丸めて投げたら、今では帽子掛けの役目を担っているあいつの六弦に当たり、和音でもない複数の音が小さい部屋に数秒鳴り響いた。