四角い山からつもってきては要らないのを切り、聞きなれない言葉が飛び交う煙草でもうもうと真っ白になっている部屋。父親の横に座り目の前の並びを見て、「この棒が三本立ってるのが来たら上がりだね」と声に出して、卓についているおじさんたちを笑わせたことがある。
それから「集まり」があると、時々覗きに行っては一だけ!と割り込んで、自分なりに考えた手を並べて遊ばせてもらった。見た目が気に入ってどうしても字牌が切れず、後ろから父の手が伸びてきて喧嘩になることもしばしば。もし暗刻で持っていたりすると自分の風でもないのに大事に取っておいて、わけもわからず切った三筒牌放銃して、ほら見たことかとやじが飛んでくる。でも、その頑固を貫いてものすごい高い手で上がり、おじさんたちから驚かれたこともある。何が起こるか全くわからない。

今でも普通の大人よりは大事にしてしまう方ではあるが、対局を重ねるうちに字牌を切れるようになった。知恵がついたのだ。数牌対子あるいは暗刻で持っていたら字牌よりも慎重にしないといけないが、確率を考えていく遊びなので、大事に抱えて高い手を待つよりも思い切って手放す。そうすると、空いたところへあれよあれよと思いがけないが集まり、新しい可能性が生まれる。そもそもが始まった時に思い描いてる手で上がれることのほうが少ないのだ。慣れてくると複数の上がり手を進めながら瞬時に思いつけるようになるが、その技を磨くより迷えることを楽しんでいたんだろうな。
壊してはまた作るの好きだもんな。

*参考
牌 麻雀をするときに使う四角いもの。
山からつもる 積まれている牌群。ここから順番に牌を持ってくる。
局 一戦。
字牌 東南西北白發中の七種類の牌の総称。
暗刻 誰からももらわずに同じ牌が三枚揃っている状態。
自分の風 東南西北と四つの風があり、各局ずつ各自に回ってくる方角。
筒牌 硬貨のような模様を使った牌。
放銃 他者に自分の捨てた牌で上がられること。
数牌 字牌以外の牌。
対子 同じ牌が二枚ある状態。