久しぶりに鶏の鳴き声で目が覚めた。さっき暑くて目が覚めた時よりは、外が白んじて明るくなっているのが、カーテン越しにもわかる。時計を見るとまだ朝の六時前。人生においてあまり使ったことのない目覚ましで、起きるはずだった時間まで一時間以上もある。完全に起き上がらずに、目をつぶって再び来るかもしれない睡魔を待ってみたが、すっかり目が冴えてしまった。

自宅で夜休むときは、たいがいベッドの上に横になって五分以内には眠りについているらしいが、これが特技に等しいと言われ心底驚いた。さらに旅先になると、白いシーツの間に体を入れてほんとあっと言う間、よく人が泥のようにと表現することがあるが、もう泥々に眠りに落ちる。

とはいえ、寝付きがいいのとぐっすり眠れるのとは話が別で、ここ最近の暑さにはすっかり参っている。夜中に部屋に溜まった重い熱を含んだ空気を感じて目を覚ますと、体中汗をかいている。そこに蚊が羽を振るわせるあの音。視界を奪われてる分、音に集中してしまうのか、ものすごく大きくて近いように聞こえて、それでなくても暑さでいらいらしているのに、さらにいかりが増長する。が、決して体を起こしたりしない。次の睡魔がやってきているから︙

今、部屋を出て三階の屋上へ出たら、きれいな澄んだ空が四方に見渡せるだろう。でも、起きない。見に行かない。階下からは、仕事の始まりを告げるロック音楽。タイの朝は早い。

(二〇一三年 五月 北タイ・ナーン ナーンゲストハウスにて)